第6話「柄物ギターのA7X」

「フライング・アロー持ってる男の子ってカッコーいいよね!」
まだボクがカミさんと知りあったばかりの頃、、キャンパスを歩いてる他の学生を指差し、彼女が言った。いかにも、ぼくバンドやってます風の男が、Vの字のソフトケースでくるまれたギターをかかえて歩いている。フライングVか。とにかく彼女の気をひきたかったボクは週末お茶の水のとある楽器屋に走り込み、親に怒られるのを覚悟でフライングV・M・シェンカー・モデルを購入した。次の日からボクは意気揚々とそのギターと共に街を歩いたのだが、畳一畳あろうほどのギターケースはとにかく重く、か弱かったボクの体力をすっかり消耗しギターを弾く余力さえも残してくれなかった。そのおかげで、彼女はボクのカミさんになり、この異国の地でも一緒にいるのだが、相変わらず柄物ギターに弱い。
ランディー・ローズの水玉、エディーのフランケン、彼女の査定にかかると、ギブソン・レスポールに至っては
「だだの木目模様の退屈なギター」と酷評されてしまう。そんなカミさんがある日「面白いバンドだよ!」と新しいバンドのCDをボクに差し出した。珍しいな?
クラシック・ロックしか聞かない、リッチー・ブラックモアー専門店の彼女が?タイトルに刻まれたバンド名は
“アベンジド・セブンフォールド”・通称”A7X”
若いバンドだな。さっそく聞いてみたボクは、、、
なんだーこいつらは?新しいような古いような
深夜ラジオドラマの終わりのような
はたまた宇宙戦艦ヤマトのテーマのような
とにかく、サウンドが変わっててスッコーンとはまった。
はまった後はモチロン、ライブさ!なんていったって”Six Strings Town”の住人だからね!
  今回のライブ会場はロサンゼルスのクラブノキア、ノキアシアターに隣接するライブハウスだ。
イベントタイトルは”リボルバー・ゴールデン・ガッド・アワード”。
音楽雑誌”リボルバー”主催による受賞式でその最後に”A7X” がライブを行う。
さあ、いつものように早めに入場して場所取りだ。今回は難しいぞ、なにせギタリストが二人いて、両名とも柄物ギターを持っている。左の雷神、ルイ・ヴィトン柄、シェクターをつかさどるは、ザッキー・ウ”ェンジェンス、右の風神、白黒ストライプ、同じくシェクターをつかさどるは、シニスター・ゲイツ。右とでるか、左とでるか?
どっちにするとカミさんに聞くと「ん、、顔の良い方!」案外簡単に決まった。
授賞式のメンバーはそうそうたるものだった。モトリー・フルメンバーにメタリカのラーズ、現役バリバリのアリス・クーパーが笑える。そしてライブスタート。
“ナイトメアー!!!!!”のシャウトと共にボーカル、M・シャドウズの登場!
続いて二人のギタリスト、顔の良い方シニスター・ゲーツはインギーばりのピッキング、運指が
指盤を縦横無尽にかけめぐる。左利きのザッキーはAC/DCのマルコム・ヤングといったとこ、裏方にまわり、しっかりリフを刻んでいる。A7Xライブに欠かせないのがモッシュ・ピット、人間押しくらマンジュウだ。ところどころで子供たちの歓声と肉のぶつかる音がする
この為だけに高いチケットを買ったわけだな、君たちの親は。さて、M・シャドウズのシャウトと、モッシュ・ピットですっかりヒート・アップしているアリーナ席、ふと隣をみると、ビールを頭上に高くかかげたカミさんが直立して叫んでいる、「ゲーツ!カッコーいいー!!!!」
はるか昔、ボクにフライングVを衝動買いさせた彼女が、まだそこにいた。
興奮さめやらぬライブの翌日、ボクはなぜこのバンドに急激にハマってしまったのか?
を考えてみた。きっかけはアルバム”SLASH”だった。新旧問わず、個性的なボーカルを集めたアルバムの中で、M・シャドウズの”ナッシング・トウ・セイ・”が一番カッコ良かった。
オドロオドロしいイントロから、駆けさっていくように歌い終わるボーカル、クラッシック・ロックを聞き飽きたボクの耳にはすごく新しかった。
以前書いたけど、ランディー・ローズが
亡くなった時、誰かが言っていた。”Rock Died”って。失われたモノは忘れがたいし、
時としてボクらは縛られてしまう。たしかに古いものには思い出があり歴史があり魂がある。
でもさ、新しいものを作り続けていくからこそ、それが古くなり、歴史となり伝説になるんじゃ
ないかな?新しいものにチャレンジしなければ、カンドーもないぜ!
みんなももっと耳を開いて、新しい音楽を聞いていこうぜ!
じゃあ、またな!