第4話「ジミーのダブルネック」

「ヒトシ!大きな荷物が届いたわよ!」ある朝、ボクの部署のマネージャーのオネーさんが畳一畳ぐらいのダンボール箱を持って来た。
みんなにはまだ話すチャンスがなかったけど、ボクはこのSixStringsTownのとある会社でカスタムペインターって仕事をしている。
バイクのヘルメットや、オートバイ、レースカー、ありとあらゆるモノにお客さんの希望どうりに絵を描いたり、色を塗ったりしている。
フェンダーカスタムショップが近くにあって、ナムショーや、マスタービルダーさんとのコラボギターの仕事もたまに飛び込んでくる。
ギターの仕事の時はダンボールを開けるのが楽しみだ。なんのギターが入っているのかな?大きいな、まさか。
ドキドキしながら中を開けてみると…「ジミーのダブルネック・・・」ギター界の重鎮,双頭の怪物、ギブソンES1275が誇らしげに横たわっていた。
みんな、ジミーのダブルネックは知っているよな?ロックの大御所、レッドツェペリンのギタリスト・ジミーペイジのギターだ。
6弦と12弦、2つのネックが一つのボディについていて、「天国への階段」の時に使われる。あのギターを初めて見た時はすごい衝撃だった。
あの驚きは、東宝まんが祭りで、宇宙のかなたから首をふりふり飛んでくる、キングギドラを見たときの驚きに似ている。
「なんでヘッドが2本あるんだ?」それ以来ボクの頭の中は、ジミーのダブルネックの事でいっぱいになり、親へのおねだりがはじまった。
しかし、まだ中学生だったボクにそんな高価なモノを買ってくれるはずもなかった。古今東西、親というものは決してロックを理解してくれない。
地方では特にそれが顕著だ。その頃流行っていたKISSは、「気味が悪い!」の一言で拒絶され、ボクの部屋に貼ってあった、明星の付録のKISSのポスターは人の集まる法事の度に、裏面のアリス側に張り替えられていた。だが、すでにロック馬鹿の階段を登り始めていたボクは、あきらめなかったイギリスのロックバンド”レッド・ツェペリン”の”ジミー・ペイジ”の”ダブルネックギター”がどんなにすばらしいものか、とうとうと母親に語り続け、ついに父親にとりついでもらうとこまでいきついた。「おとうさん、ヒトシ君がイエローサブマリンてバンドの二本組のギターが欲しいんですって。」
・・・・・な、なんだー?民謡教室の先生をしてた母にかかると、飛行船は潜水艦に様変わりし、ダブルネックは「二本組」と和訳されてしまった。
だが、当時勉強が嫌いだったボクに父親は、狡猾なワナをしかけてきた。「わかった、買ってやろう、そのナントカとやらの二本組ギターを。しかし、いっぺんに二本は勿体ない。高校に受かったら一本、大学に入ったときに残りの一本を買ってやろう。」
そしてボクはしたくもない勉強に励み、見事高校に合格。約束どうり買ってもらったのが、トーカイ・LS80。50年代のギブソン忠実にコピーしてあってグレードによって8万円、10万円、12万円と値段が違ったが、まだ中学生の身という事で、謙虚に安いほうにした。そのギターと毎日たわむれ。
「天国への階段」のギターソロが完コピ出来た頃、二つ目の約束大学受験に成功。
さあ、次はどのギターを買ってもらおうかな?その頃には、皆さんご存知のとうりボクの頭はジワジワと柄物ギターに汚染され始め、二本目のギターは、国産フェルナンデスのST60になった。そして、もちろん言わずと知れた”ヴァン・ヘイレン柄”にペイントした。
それが、ボクのカスタムペインターの階段の第一になったワケなんだな。
  あれから30年、こうして人様のモノとはいえ、やっとあこがれのジミーのダブル・ネックが目の前にある。
お客さんの注文票には『ささやかなピンストライプをヘッドに入れて自分の名前をボディーに金箔ではりつけてください。』とある。
うん、ギターの外観をそこなわない、いい注文だ。
はるか昔ひとりの中学生を一瞬にして魅了し、”ロック馬鹿”への道へといざなったジミーのダブルネック。
持ってみると、、、おっ、重い!とても弾けたモノではない。
良かった、買わなくって。親の言う事は正しかった。
一度に二本は勿体ない。ダブル・ネックを買うんだったら違うギターを二本持ったほうが絶対良い!
曲の数だけリフがあり、リフの数だけギターはいる。
そう、ギターは何本あってもいい!
日本のみんなもがんばって親を説得して良いギター買ってもらえな!
じゃまたな!